コラム

COLUMN

色と光が与える心理的効果とは

~心理学を応用した店舗デザイン~

はじめに

普段何気なく目にしている「色」や「光」ですが、店舗デザインにおいてとても重要な役割を持っています。空間に必ず存在する「色」と「光」ですが、それらをデザインする事は、見た目や雰囲気が良くなるだけでなく、心理的効果やマーケティングにおいても影響があると言われており、店舗デザインにおいて必要不可欠な要素です。色と光それぞれにどのような心理的効果があり、どのようにそれらを店舗デザインに活かせるのかをご紹介していきます。

「色」とは何か

色は店舗の雰囲気や印象を左右するだけでなく、心理的、身体的に働きかける効果もあると言われており、店舗デザインを考える上で重要な要素となります。五感から得られる情報の中でも来店客の記憶に最も残るデザイン要素の一つと言えるでしょう。

単に見た目の綺麗さだけでなく、人間の感覚に働きかけることを考慮し、その目的やブランドイメージにあった色味を選択する事が大切です。「色彩心理学」や「カラーマーケティング」と呼ばれる学問やビジネス戦略も発展してきており、色に関する知識はデザインの分野以外でも注目を集めています。色を効果的に店舗デザインに取り込むことで、限られた予算の中でも出店者からのメッセージを込めた店舗デザインに仕上げる事が可能となります。

「光」とは何か

店舗デザインを考える上で色と同じくらい「光」も大切な要素です。窓の多い店舗では、昼間は日光が入り店内は明るくなりますが、複合商業施設などの店舗では窓が無い事が多く、照明器具によって店内の明るさを調節しています。その為、店舗デザインにおいての「光」は「照明器具」とも言えるでしょう。電球色に近いオレンジ色の照明器具や、蛍光灯のような白い光など様々な種類の照明器具があり、用途によって使い分ける必要があります。

また、使い方や設置の仕方によっても光の印象が変わり、空間全体を柔らかく照らす光や、特定の物を集中的に照らす光など使い分けが出来ます。光も人の記憶や心理に与える影響が大きく、人々の行動にも影響を与えます。

色が与える心理的効果

色彩心理学において、「色」は人の心理に働きかける効果があると考えられており、目的に合った色を上手く取り入れる事で、店舗のサービスに対する満足度向上にも繋がります。色は大きく分けると4種類(暖色/寒色/中性色/無彩色)に分類する事ができ、その中でも「暖色系」と「寒色系」はそれぞれ正反対の心理的影響があります。白や黒などの無機質な色は「無彩色」、緑や紫など暖色でも寒色でもない色は「中性色」に分類されます。

暖色系

赤やオレンジ、黄色などは暖色系に分類され、温かみのあるイメージとされています。暖色は高揚感を与えたり、食欲増進の効果があると言われています。比較的目立つ色味が多く、人々の注意を引きやすい色とされています。その為、飲食店のロゴやアパレル店舗の「SALE」告知などは暖色系が使われる事が多くなっています。

寒色系

反対に、青や水色などは寒色系に分類され、冷たさや寒さを連想させる色とされています。寒色は、気持ちを沈静化させたり集中力をアップさせる効果があると言われています。また、寒色は食欲減退に繋がると言われている為、飲食店の内装などで寒色系を多用するのは注意が必要です。

光が与える心理的効果

照明の光には白っぽい光やオレンジの光など様々な色味があり、それらの違いは「色温度」と呼ばれる数値で表現されています。「ケルビン」という単位が使われており、数値が高いほど蛍光灯のような白っぽい色になり、数値が低いと白熱電球のようなオレンジっぽい光になります。ケルビン数の高い照明は集中力を高めたり、爽快感や清潔感を与える効果があり、学習塾やクリーニング店などで使われる事が多くみられます。

また、商品の色をそのまま伝えられる為、物販店舗でも商品に当てる為の照明器具などで採用されたりしています。反対にケルビン数の低い照明は気持ちをリラックスさせ、暖かさや安心感を与える効果があると言われており、レストランやバーなど落ち着いた雰囲気で料理を楽しむような場所に最適な色温度です。色温度の他に「照度」という明るさを示す数値があります(単位=ルクス)。一般的に照度が高い時は色温度が高い照明を使い、照度が低い場所には色温度の低い照明器具を使うと心地よい空間になると言われています。照度が高くて色温度が低い(オレンジの光で明るさが強い)場合は暑苦しい印象となってしまい不快感を与えるとされています。

反対に照度が低くて色温度が高い(白っぽい光で暗い)場合は冷たく陰鬱な空間となってしまう為、こちらも不快感の原因となってしまいます。

店舗デザインでの「色」の活用法とテクニック

物販店/ショールーム

物販店やショールームの主役は「商品」の為、扱う商品の色味などを考慮し、商品が引き立つような色彩計画をする事が大切です。使用を控えた方が良い色などは特に無いため、ブランドコンセプトやブランドカラーを上手く取り入れるとメッセージ性のある店舗空間となるでしょう。

飲食店

他の業種よりも店舗の滞在時間が長くなる為、リラックスしやすい色や落ち着いた色味で空間を構成することが必要となります。近年ではナチュラル系の雰囲気にする店舗も多く、木目調やグリーンなど自然に存在する色を中心にデザインされています。アクセントカラーで食欲増進効果が期待できる暖色を取り入れる事で客単価アップにも繋がるでしょう。

色は照明の色温度の影響を大きく受ける為、照明計画と併せて色味を選定する事が大切です。

店舗デザインでの「光」の活用法とテクニック

効果的な照明について考える事を「照明計画」と呼び、色彩計画とも大きく関わる為、より良い店舗デザインにする為に必要な要素です。照明計画は物販店と飲食店で考え方が異なります。

物販店の照明計画

「ベース照明」と呼ばれる空間全体の明るさを保つ為の照明を配置し「演出照明」と呼ばれる商品やディスプレイを際立たせる為の照明で空間のメリハリを作っていきます。人は明るい物に目がいく為、メインとなる商品などにスポットライトなどを当てて他の場所より明るく目立たせる事で来店客の視線を誘導する事ができます。また、商品の色をしっかりと見せる必要がある為、色温度の低い照明は避けるのが良いとされています。

飲食店の照明計画

飲食店の照明計画はファストフードやレストランなどの業態によっても違いがあります。ファストフード店などでは長時間の滞在を想定しておらず、爽やかで清潔感のある空間を意識した明るめの照明計画が多くみられます。レストランやバーなどでは空間全体を暗めにし、手元やテーブルが明るくなるようにスポットライトなどを当てる事でムーディーな雰囲気を演出しています。また、調光(一つの照明器具で照度や色温度を調節できる機能)のできる照明器具を設置する事で、ランチタイムとディナータイムの雰囲気を変える事もできるようになります。

まとめ

これまでご紹介したように「色」と「光」は店舗デザインを考える上で無くてはならない存在です。そしてそれらはお互いに影響し合っている為、色彩計画と照明計画を同時に考える必要があります。色も光も人間の心理に影響を与える効果があり、購買意欲や食欲アップにも繋がっていきます。見た目のデザインだけでなく、どのような効果を狙っているのかなども考慮した上で色や光を店舗デザインに取り込んでいくと良いでしょう。

今回のコラムテーマ

~心理学を応用した店舗デザイン~

読むデザイン

店舗デザインには様々な仕掛けや工夫が散りばめられています。内装・家具・インテリア・建築など総合的に考えながら、目に見えるものはもちろん、空気感、匂い、温度などの目に見えない「シーンを語る」ような雰囲気づくりが大切です。STORE PALETTEでは店舗デザインをはじめとした様々な空間デザインについて独自の目線で執筆しています。